prrrr

大型連休。

それは会社勤めの人にはとても待ち遠しいもの。

家族との団欒を楽しむもよし、仲の良い友人と旅行に繰り出すもよし。

みなそれぞれの楽しみを胸に描き、前々から予定を考えるのだ。

 

 

当然観光地はどこもかしこも人であふれ、荷物を背負った僕はもちろん、そうでなくともまっすぐ歩くことは難しい。

それだけたくさんの人が行き交う街だ、きっと特別な人が紛れていても気づきはしない。

 

 

 

その日の演奏会場はとてもすてきなカフェだったので昼食をそこで摂ろうと考え、お昼前に会場に到着した。

店主とのはじめましてのあと、ランチセットを注文した。

 

手ぎわのよい調理、あっという間にランチセットが出てくる。

彩りゆたかで目にもおいしいそのランチを店主と談笑しつついただいていた。

 

 

 

その時、

 

 

 

 

prrrr…

 

 

prrrr…

 

 

 

かすかな電話の着信音。

 

 

僕の携帯電話は終日マナーモードにしている。

 

 

とするときっと店主の携帯か、お店の電話だろう。

 

 

 

prrrr…

 

 

prrrr…

 

 

 

 

調理をしているためか店主には聞こえていないようだ。

 

 

注意を促すために「お電話鳴ってますよ」と告げると

 

 

 

 

「いや、私のじゃないですね」

 

 

 

ここにはいまふたりしかいない、じゃあこの音はどこからだというのだ。

 

 

口を閉ざし、鳴り続けるかすかな着信音に耳をかたむける。

 

 

 

 

 

もしや、、外?

 

 

 

 

 

ふたりの巡らせた思いはほとんど同時、席を立ち、外に向かう。

 

 

 

外に近づくたびどんどんはっきりとしてくる音像、やはり外からのようだ。

 

 

 

外に出てあたりを見まわすが見当たらない。

しかし音はすぐそばから。

 

 

 

 

 

「あった!」

 

 

 

 

 

店主の声のする方に目をやる。

 

 

 

 

目に飛び込んできたのはなんと入り口付近の電柱にぶら下がった携帯電話。

予想だにせぬ光景に息を呑む。

 

 

 

 

PRRRR!

 

PRRRR!

 

PRR..

 

 

 

出るのをためらっている間にそれは息絶えたように静かになった。

 

よくよく見るとその携帯には結構な使用感があり、なぜか釣り糸のようなもので電柱に括り付けられている。

 

 

 

そのことからそれは誰かが落としたもの、そしてそのまた誰かが踏まれぬようにと括り付けたのだろうと察した。

 

 

とすると、先ほどの着信はおそらく持ち主。

 

怖がる店主を横目に掛け直そうと携帯を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

開いた待ち受け画面にはポップな字体で「神」の文字。

 

 

 

 

 

 

 

予期せぬ衝撃的な告白にすこしたじろいだが、神さまならばなおのこと困っているに違いない。

 

すぐに着信履歴の番号に電話を折り返した。

 

 

 

 

ものの2コールほどで出たその方は、話を聞くとやはりこの神ケータイの持ち主。

おそらく先ほどのそれであろう。

 

 

 

よほど困っていたようで、今からすぐに取りにくるということで電話を切った。

 

 

店主と「良かったね、どんな人だろうね」なんて言いつつ到着を待つ。

 

 

 

その間、携帯電話が釣られている光景などなかなかお目にかかれないため、写真に収めようと目標物にカメラを向ける。

 

もうすこし、、もうすこしピントを合わせて、、

 

 

 

 

 

その時、横からゆっくりと近づく自動車が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向くと、軽トラック乗ったふたり組の中年男性。

 

 

 

 

カーウィンドウが開き、声が聞こえる。

 

 

「あの〜、もしかして携帯の〜、、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかのタイミングに焦る僕、咄嗟に

 

 

 

 

「あ!ちゃんと◯※△しないように‰¥♭してます!!」

 

 

 

罪悪感と焦りからか、僕の口から飛びだしたのは世界がまだ知らない言語だった。

 

 

 

 

 

 

「あ〜。」

 

 

 

 

 

 

 

僕の放った未発見言語での弁明は当然のことながら空を切る。

傷は、深い。

 

 

 

続けてその方は謝罪の言葉を差し出す。

 

 

 

「あぁ、これです。いやーすんません、迷惑かけました!」

 

 

 

会釈をしながら釣り糸を切り、携帯を渡す。

 

 

 

「ありがとうございます〜!」

 

 

感謝の言葉にいえいえと手を横に振ると、続けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだけでした?」

 

 

 

との言葉。

 

 

 

 

 

これだけでしたと伝えると

 

 

 

 

 

「あ〜、、そうですかぁ〜、、」と苦い顔になり目線を逸らした。

 

 

 

 

納得がいかないようで、すこしの間しかめっ面で下唇を噛んでいる。

 

その間、僕はやはり神さまには携帯は複数個必要なのかなどと考えつつ、相手の口が開くのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜ッ、わかりました!ありがとうございます!」

 

 

 

つらい事実を呑むように、決意するような言葉と表情、その方は車のギアをドライブへと入れた。

 

ゆっくりと進みだした車、その窓から手を振る持ち主と会釈する助手席。

 

 

 

 

 

「どうも!ほな、また、また!」

 

 

 

 

 

と言うなり市道の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事解決したかのように見えるこの一件。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしどうしても気にかかる、最後の言葉を忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしどこかで神ケータイを見かけたら怖がらず掛け直してあげてほしい。

きっと、軽トラの神さまは今日も「また」困っている。

 

「prrrr」への3件のフィードバック

  1. はじめまして。通りすがりのものですが、とってもおもしろい・・・
    こんな光景に出くわすヤマモトさん、神がかってますね。
    わたしの帰り道にもいつか神ケータイがぶら下がってますように。
    ツアーのどこかでおじゃまするかもです。
    呼ばれたってとこが気になります〜

    1. pさま

      通りすがりにお気に留めていただき、コメントまでありがとうございます、とてもとてもうれしく感じております。
      そうですね、pさまの元にも幸運(悪運?)がぶらさがりますように。
      お時間ございましたらぜひともお越しくださいませ、お話させていただきたいです。

  2. こんばんは。

    我が故郷青森では、神と書いて”じん”さんが割とフツーにいます。
    県外でファミレスの順番待ちの時なんかに
    紙に名前を書くと、大声で
    「XX番でお待ちの、かみさまぁ~!」
    と呼ばれてめちゃくちゃ恥ずかしい思いをする、
    というのが神様の鉄板ネタですw

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