シュ・ラ・ラ

2016年7月31日

4月にはじまった漂泊のてびきツアーも佳境にさしかかり、スタートしたころとはまったくと言っていいほど違う気候になった。

 

移動は公共の交通機関だが、やはり歩くこともたくさんある。

 

さすがにこの時期、ギターや大荷物を連れて歩くと結構な汗をかく。

 

もともと代謝の良い僕(良い言い方をしました)は歩いてきたそのままの状態だと人様と会うことなど到底できないほどのかきっぷりなので、特に暑い日は一日に何度か着替えることもある。

 

すぐに持ち合わせ衣類のストックが尽きるので、よくコインランドリーを利用している。

 

コインランドリーというものは旅をしている者にとって本当にありがたい。

 

ポッカリと口の開いた箱に衣類を投入、フタをしてコインを入れたなら後は全自動のメカにすべてお任せ。その間がんがんに冷房の効いた部屋でマンガ本や週刊誌などを読み漁っていればよいのだから。

 

それに、あのなんとも言えない絶妙な空気感が好きなのだ。

 

 

 

先日も夜行バスに乗るまで2時間ほど余裕があったので、僕の好きなその空間に行ってきた。

そこはホテルの敷地の片隅にあるのだが、そのホテルの宿泊客以外も自由に使用できるコインランドリー。

 

 

しかし、今回はランドリーに入ると少し落胆した。

なぜなら乾燥機が4kgの小型のタイプだったからだ。

小型のものは容量内の洗濯物でもなかなか乾かないためあまり好きではない。

しかしながら他にコインランドリーがないため、止むを得ずそこで洗濯することにした。

 

 

ランドリー内には小型の洗濯機が3台、同じく小型の乾燥機が上下セットで3台ずつあり、それぞれのボディに1号機、2号機、3号機と書かれてある。

 

僕が入った時には1号の乾燥機を大学生と思しき男性が使っており、乾き終わりを中にあるベンチに腰掛けて待っていた。

 

スーツケースを開け、洗濯物を3号機の洗濯機に入れる。

 

その時、後ろから中年男性がランドリーに入店し、2号機の洗濯機に洗濯物を入れた。

僕とその中年男性はほぼ同時に洗濯機を回し始め、洗濯終了までの時間を示すデジタル表示は40分を示す。

僕はもうひとつのベンチに腰掛け、中年男性はいったんランドリーを後にした。

 

ふたりきりのランドリー。はじめは携帯を触っていたが、せっかく向かい合って座っているのでその大学生らしき男性に話しかけてみた。

話を聞くとやはり大学生。卒業旅行でこの地を訪れている、とのことだった。

その大学生もコインランドリーをよく利用するらしく「小型の乾燥機はダメだ!」という話題で盛り上がった。

 

現にその時も1度回したが生乾きだったため、2回目を回している最中だったようだ。

 

 

そうしているうちに洗濯が終わった。もちろん中年男性の洗濯も同時に終了。

さっそく乾燥機に入れようとしたのだが、その日に限っていつもより洗濯物が多いことに気が付いた。

 

 

 

(…たぶん、この量でひとつの乾燥機だとぜんぜん乾かないだろうなぁ…)

 

 

 

 

 

 

脳裏にひとつの考えがよぎる。

 

 

 

 

 

 

(…2号乾燥機も、使っちゃおうかな…)

 

 

 

 

 

 

洗濯が終わって5分、本来ならば洗濯が終わるすこし前に戻っているはずだ。なのに同時に洗濯が終わった2号機の中年男性はまだ現れない。

 

空いている2台の乾燥機、できることならば洗濯物を半分にわけて回したい。

 

しかし、それをしてしまうと大学生が使っているのも含め乾燥機はすべて使用中となる。

 

中年男性が回している途中に戻ってきたなら憤怒するのは必至、でもまだ帰ってきていないのは事実。

 

悩んだ挙句、自分だけでは決めきれず大学生に意見を仰ぐことにした。

 

 

 

僕: 「あの、、これって両方使ってもいいと思います?」

 

大学生: 「えっ?全然いいでしょう!」

 

僕: 「で、でもさっきの人戻ってきたときに使ってたら怒られそうじゃないですか?」

 

大学生: 「大丈夫でしょう!だってこっちはここで待ってたんですから!終わる前に戻ってこないのって人としてダメでしょう、それで文句言われるのは絶対お門違いですよ!!」

 

 

 

 

そのなんとも男らしい言葉が僕を禁断の2台使いの道へといざない、大学生には何の力もないはずだが僕の心はまるで100人力。

 

これが所謂、”赤信号みんなで渡れば怖くない状態”である。

 

僕は2つの乾燥機を回し始めた。なんだか誇らしささえ感じながら。

 

 

 

回し始めた矢先、「ちょっとメシ食ってきます」と大学生がランドリーから出て行き、ランドリーには僕ひとり。

 

 

 

大学生が去って数分後、中年男性が戻ってきた。

 

 

 

 

中年男性の姿を目にし、すこし緊張は走ったものの先ほど大学生にいただいた男気をまとっている僕はまったく後ろめたさなど感じず携帯を見ていた。

 

 

 

 

その時、

 

 

 

 

 

 

「オーイオイッ!!だ、誰ッ!このクソッ!ンダラァ!ダラァッ!!」

 

 

 

 

 

 

大きな声に驚き目をやると、2号の乾燥機が使われていることに気づいた中年男性が乾燥機に向かって吠えていた。

 

 

思っていた倍、いや3倍は怒っていただろうか、なにせ顔が真っ赤っかなのだ。

 

 

吠えて終えてもなおブツブツと言葉にならない怒りの呪文を唱えながら、終了している2号洗濯機を開けることなく中年男性は真向かいのベンチに腰をおろした。

 

 

 

先ほどまでまとっていた”男気の鎧”は瞬く間に消え去り、「ごめんなさい、自分です」を言うタイミングさえも逃してしまった僕は、”2号回したの僕じゃないよ”の顔をして、用のない携帯を触っているふりをすることに徹すほかなかった。

 

 

なんとも気まずい状況、しかしあることに気づいた。

 

 

3号乾燥機の残りは15分、悩んで回した2号乾燥機は20分、1号乾燥機(大学生のつかっているもの)の残り時間は8分。

 

そう、大学生の使っている1号の方が僕のものよりも先に乾燥し終わるのだ。

 

大学生が終わればその空いた1号機を中年男性が使い、その場を去ってくれれば2号を僕が使っていることを中年男性に悟られずに済む。

 

 

 

 

(…なんだ、よく考えれば全然大丈夫じゃないか…あと8分の我慢だ)

 

 

 

 

ホッと胸をなでおろし、大学生の帰りを待っていた。

 

 

 

 

 

なかなか帰ってこない。

 

 

 

 

 

1号機の乾燥が終わる。

僕の使っている3号機は残り12分。

 

 

 

 

大学生の帰りはまだ。

 

 

 

 

若干の焦りを感じつつ待つ。

まだ猶予はある、最悪、僕の3号の乾燥が終わるまでに戻ってきてくれたらいいのだから。

 

 

 

 

 

しかし時間は刻々と過ぎていく。

 

 

 

 

 

中年男性は2号が使われていたことに加え、その後1号が終わっているのに戻ってこないということもあり怒りはどんどん増していく。

ついに「チャッ、チャッ」と舌打ちをはじめた。

 

 

 

 

 

4分、、

3分、、

2分、、

 

 

 

 

 

減っていく時間と高鳴る鼓動。

 

このままでは修羅、いや、修羅が2回でシュララとでも言うのか。

 

 

 

 

ついに残り時間が1分を示した。

もう気が気ではない。

 

 

先ほど大学生が男らしく言い放った「終わる前に戻ってこないのって人としてダメでしょう!」が虚しく頭の中を駆けめぐる。

 

 

 

そしてついに先に回した3号の乾燥が終わった。

乾燥が終わると「ピーッ」と終了を知らせるなんとも親切な機能、ここではまるで最期を伝える号笛。

 

 

 

号笛が吹かれるやいなや、中年男性はちらりと3号乾燥機に目を向ける。

もう伸ばすことなんてできない。

 

 

 

( …頼む、カラカラに乾いていてくれ…!)

 

 

 

 

そう心で念じながら3号のフタを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…..

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっごい生乾き。

 

 

 

しかしもう一度回すわけにはいかない。

 

横目で彼がこちらを見ているのだから。

 

 

しぶしぶ3号乾燥機からすべて取り出す。

やっぱりすっごい生乾き。

 

しかし今、それよりも大事なのは僕が2号機を使っているとバレないことだ。

もはや乾いているかどうかなどこの際どうでもいい。

 

 

勇気を出して中年男性に向かって

 

 

「あの、こっち空いたんでどうぞ!」

 

 

と声をかけた。

すると

 

 

「ええっ、いいんですか?まだそれ乾いてないんじゃ、、?」

 

 

 

と思いもよらぬ返事。

 

 

「どうぞどうぞ、このくらい外置いとけばすぐ乾くんで!」

 

 

と言い切った。

僕はきっと引きつった笑顔だったろう。

 

 

「なんか悪いっすね、ほんと、スンマセン」

 

 

と言いながら空いた1号機乾燥機に洗濯物を入れる中年男性。

 

 

 

 

2号乾燥機の残り時間はあと3分。

 

 

 

 

中年男性が1号乾燥機に洗濯物を入れ回し始める。

 

「ほんとありがとね」

 

そう言って出て行きかけたその時、

 

 

 

 

「あ、ギター、、どっかから来たんすか?(目がキラキラ)」

 

 

 

 

まずい。

この話題はまずいぞ。

 

 

いつもならばうれしい話題だが、今日だけは最悪の話題。

話し込んでいる間に2号乾燥機も終了し、僕が使っていたとバレてしまうからだ。

 

 

 

2号乾燥機は残り1分。

一刻も早くこの話題を終わらせて去ってもらわなければ。

 

 

 

「あ、あーですです、ちょっと旅行がてら来てるんですがすぐ帰るんです、わーこんな時間、バス間に合うかなー(超絶早口)」

 

と言うと、

 

 

「そっか、そうなんだ、がんばってな」

 

 

 

雰囲気を察したのか中年男性はそう残し、すこし寂しそうな顔をしてランドリーをそそくさと後にした。

 

 

無事にバレずに済んだ安堵と、話したいのに早く追い返してしまった申し訳ない気持ちとが入り混じりなんだか複雑な気持ちだった。

 

 

その時、大学生が入れ違いくらいのタイミングで戻ってきた。

 

 

僕: 「あっ、どうも。帰ってくるの遅くないですか?」

 

大学生: 「えー?そうですか?」

 

僕: 「だいぶ前に1号終わってましたよ」

 

大学生: 「ああ、だと思ってましたけど余熱で乾かそうと思って」

 

僕: 「さっきのおっちゃんめっちゃ怒ってましたよ」

 

大学生: 「まじすか、いやーこればっかりはしかたないっすね、いいっしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと。

どればっかりはしかたないというのだ。

あの男気はフィクションだったのか。

 

 

 

 

 

 

2016年、夏真っ盛りの7月。

 

“男に二言はない”という言葉、今までより強く心得たのであった。

 

コメント

  1. ナガシマサチコ より:

    読みながらドキドキしましたぁっ!!なんとか上手いこといった(?)感じでよかった…
    二号きが間に合わずピーピーなってたなら、わたしならどうしただろう!?はー恐すぎる‼
    何はともあれ、これもまた旅の思い出ですね!
    無事ツアーを終えることを願っております!
    シュララ♪

    • yofukashibiyori より:

      ナガシマさん

      コメントありがとうございます!
      なかなかパンチのある出来事でした。
      暑い日が続いていますので、肝を冷やすくらいがちょうどいいのかもしれませんね。笑

      事件がある度こちらでご報告いたしますので、これからもチェックをお願いします。笑

  2. Satomi より:

    コインランドリー。たまに使うから臨場感が伝わるし、日記がすごく面白いです!これからも日記楽しみにしています。よく、ギターを持って旅してるのかな?って人を見るけれど、ほぼほぼそのギターでが体に当たってよろけてはトランクで足を牽かれるのは私だけでしょうか??笑

    • yofukashibiyori より:

      ありがとうございます。
      何かあればすぐに書きたいと思いますのでチェックしてやってくださいね。
      ギターもずしんときてます、広い心でゆるしてやってください。,笑

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。