真夜中。
この時間のしんとした空気が好きだ。
けたたましく走る車も、騒ぐ輩もみんなおやすみ。
凛とした空気の中、時折聴こえる新聞配達のカブの音。
いつもは気にならないがこの時間ならそれも良いアクセント。
ほら、これを書いてる今も「ブロロロロ」と控えめなカブの音が。
しかし今日は風が強い。
カブの音もいつもよりおしとやか、いや、風の我がもの顔の吹きっぷりにどこか遠慮しているよう。
今日のような日はちょいと昔に記憶を巡らす。
少しづつ、よみがえる記憶たち。
楽しかった学生生活、甘く切ないあの頃の思い出。
ひとつふたつ巡らせるうちに疑問が湧く。
「写ルンですはどこにいったのか」
それだけではない。
「プリントゴッコは、MDはどこにいったのか」
高校まであったのは覚えている、しかし彼らが消えたその時期の記憶が見事なまでに欠落している。
中学生の頃、僕の持っていたMDウォークマン。
おさがりのため少し古く、最新のものと比べてひとまわりボディが大きかった。
ただでさえ季節ごとに新作が出るような電化製品だ、もちろん、周りのみんなが持っているものは薄くスタイリッシュなものだった。
そのため、気恥ずかしさもあってポケットから出さずに聴いていた。
ある日、友人のひとりが聴き飽きたので中身を交換しようと提案してきた。
特に断る理由も見つからなかったためそれを快諾し、ポケットからウォークマンの本体をうっかり机の上に出した。
迂闊だった。
あれだけ気をつけていたにもかかわらず、あろうことか皆の目前でその姿を晒してしまったのだ。
「え、デカくない?ヒソヒソ」
「こんなの見たことねぇよ、、ヒソヒソ」
ウォークマンの大きさにざわめく周囲。
そのとき、誰かが叫んだ。
「コンポだ!こいつコンポ持ってきとる!」
無論、コンポではない。
しかしそのコンポという響きは皆の心をがっちりつかみ、コンポコールが教室に飛び交う。
「コーンーポッ!コーンーポッ!」
悔しかった。
その日からある一定期間あだ名が「コンポ」になった。いや成り下がった。
ちなみにその時期仲の良かったMくんはなぜか「ポンコ」になった。とんだとばっちりだ、ごめんよ。
あのときのコン..いやウォークマンはどこにあるかな。
手が空いたらまた探してみよう。
そんな思い出を思い出させてくれた今夜の風でした。