さいごのうた

ステージに立つ演者にはやらなければならないことがある。

 

「観る人に何かしらを与える」ということだ。

 

それが感動であれ、楽しさであれ、何なら悲しみだっていいと僕は思っている。

 

 

何も感じられないステージがいちばん良くないのだ。

 

 

 

 

 

先日のライブでのこと。

 

開場時間になり、お客さんが入ってくる。

みんな、リラックスした顔。

僕は本番前でもふにゃふにゃ(他人談)なのでお客さんもあまり固くなっておらず、お客さんどうし談笑している。

 

そんな中、前回この地を訪れた時にも来てくださったお客さんの姿が。

 

「こんばんは」

 

すてきな笑顔であいさつをくれた。

僕は嬉しくなって、

 

「また会えてよかったです!」

 

すると

 

「うん、こちらこそ」と。

 

 

そう言った後、ふと、一瞬の間が空いた。

 

その空いた間の意味が理解できぬまま、言葉がつづく。

 

 

 

「そうそう、前のライブの時に連れて来てた親父、ライブの後すぐ亡くなったんだよ。ヤマモトさんのライブが最後に観たライブになっちゃったんだ〜。

 

 

そう言うとお客さんは苦笑いのような表情で視線を落とした。

 

 

正直、何も言えなかった。

 

何を言っても軽く聞こえてしまいそうだったからだ。

 

 

「がんばってね」

 

 

言い終わると、どんな顔をしていいかわからない僕に背を向け客席に座った。

 

 

自分が生涯最後に観るライブ。

 

もちろんどんなものかなんて想像もつかない。

 

その日のライブで最後に僕がうたったうたがその親父さんの生涯聴いた、最後のうたになったのだ。

 

そのことが払拭できぬまま、ライブがはじまる。

 

 

時折そのことがよぎった。

良くないのはわかっている。

 

しかし、隠すのが精一杯で完全に拭い去ることはできなかった。

 

 

終演後、そのお客さんから、

 

 

「親父、前のライブ楽しんでたよ。ヤマモトさん、またぜひ来てね、待ってるから」

 

 

そんな言葉を栄養ドリンクとともにいただいた。

 

 

その言葉に嬉しいような悔しいような気持ちになった。

あの栄養ドリンクはきっと、察してくれてのことだったんだろう。

 

 

 

これから先、きっと同じような場面に遭遇する。

そのときは「最後に観ていただけてよかったです」と胸を張って言いたい。

 

 

 

ライブは、その場にいるお客さんがすべて。

伝えるのは、遠いところの有名なプロデューサーでも、音楽関係者でもない。

 

 

 

これからも、目の前にいる、ステージを見つめてくれる方々に向けて。